おひとりさま

毎日読んだ本の感想を書いています。

「光」三浦しをん

f:id:ohitori_y:20161020074010j:image

 

この作品を読む直前に「秒速5センチメートル」の小説版を読んでいたせいか、まーた一人の女に狂ったように執着した男が狂ったことしでかす話か、と思っていたらおおよそ期待を裏切らない話の展開でした。

三浦さんの作品は「舟を編む」と「風が強く吹いている」を読んだことがあったんですけど、漠然ともってたさわやかなイメージが覆されました。いい意味で!

 

舞台は美浜島という島。山も海もあって椿の赤い花がわんさか咲き誇る谷は観光名所ではないけれど十分うつくしいところで、そんな場所に住む中学生・信之と美花、小学生の輔くんが主な登場人物。

 自然も多くみずみずしい舞台ですが、信之と美花は中学生のくせにやることやってる進んでる中学生だし、灯台守のおっちゃんからしっかりコンドーム買ってる妙に現実的っていうかリアルなところが悟ってるいまの子どもっぽい。

 

この信之少年が美花ちゃんのことめちゃくちゃ好きで、それはもう思春期の男子っぽく半ば自覚症状が薄くなるくらいに惚れ込んでいて、見ててあーはいはい、って思うし、たぶんこの男は読んでいくにつれ美花ちゃんによって身を滅ぼすんだろうなと思う。そんでだいたいその通りになっていきます。

美花ちゃんの小悪魔ぶり、手のひらで男転がすよ感もすごい。中学生の時点で心得てるスキルが高すぎる。魅力がすごいよ!

 

そんな行き過ぎてる中学生たちの周りをぴょんぴょん飛び跳ねてる頭の弱い小学生・輔くんがまあかわいい。信之のあとをついてまわって遊んでもらいたがってる年相応ないいこ。でもこの子も酒乱でクズ野郎な父親に毎晩殴りつけられて顔に痣作っちゃってるような訳ありボーイです。天真爛漫でなにも考えてないように見せかけて、心の中ではつねに「ぜんぶ終わってしまえばいい」とくすぶるように思い続けている。

 

そんな中で、島に大津波がやってきて町が壊滅します。

生き残ったのは信之・美花・輔くん。あと数名の大人だけ。

こんな小さい島で、生き残ったのはたった数人。いったいこれからどうやって生きていく?  って子どもたちは一瞬だけ途方に暮れるんですけど、輔くんに至っては「やりー!  めんどくせえもん全部波がかっさらっていったぜ!」と大喜びだし、信之なんて「生き残った生殖可能な人間は俺と美花だけ、ふたりでどんどん人間を増やしてこの島を再生していく、神とは俺のことだ」って平然と考えたりしていて、あ、これがサイコパスってやつ?  と割と本気で引きました。

 

津波によって大きく変わらざるを得なかった生活。そこから三人の人生は交錯しつつ、なんとも物悲しい最後へとつながっていきます。

 

決して爽快な話ではないんですよね、これは各々の感じ方だとは思うんですけど(こんなこと言いだすと全部の作品がそうなんですけど)、語る人間の視点によってはハッピーエンドでもある、と思う。

 

少なくとも輔くんはしあわせだったんじゃなかろうか……。どこまでも輔くん贔屓ですが、とんでもない親父の保護下で逃げられない暴力に甘んじ、津波のおかげで解放されると思いきや、良い歳になっても結果的になんら変わってない状況に絶望して、でもほんとうに最後の最後で、終わらせてくれたのは大嫌いな親父の手ではなかったんだよ。あの瞬間にはじめて彼は報われたんだとおもうともう何も言えない!

 

「大きな波が、俺を遠くへ連れていってくれるのを。待っていれば必ず、それはどこかからやってくるって知ってるか?」 

 

輔くんは結局、はやく終わらせてほしかっただけなんだろーなあ。

どうぞこの作品を読んで輔くん贔屓になってください。